労務管理は専門家へ。
それはコストではなく「未来への投資」です。
企業の持続的な成長において、優れた製品やサービスと並んで不可欠なのが、健全な「人事・労務管理」です。
従業員が安心して能力を発揮できる環境があってこそ、組織は活力を持ち、生産性を高めることができます。
しかし、働き方改革関連法をはじめ、労働環境を巡る法律は年々複雑化しています。経営者の皆様が、めまぐるしい事業環境の変化に対応しながら、これらの専門的なルールを完璧に把握し、運用し続けることには、計り知れない負担が伴います。
以下に挙げる4つのテーマは、労務管理の中でも特に専門的な知識が求められ、一つ対応を誤れば深刻な経営リスクに繋がりかねない分野です。
もし、少しでもご自身の会社の状況に不安を感じられたなら、それは労務管理のあり方を見直す絶好の機会です。
1. 就業規則:会社の憲法、正しく機能していますか?
就業規則は、単に法律で定められた義務(常時10人以上の労働者を使用する事業場)というだけでなく、会社の理念と秩序を形にする「会社の憲法」です 。
- 「とりあえず」の雛形に潜む危険インターネットで手に入る雛形は、あくまで一般的なサンプルです。それをそのまま利用していると、貴社の実態にそぐわないばかりか、法改正に対応できず、変化に対応できていない規定がそのまま残っている可能性があります。
古い就業規則は、いざ労使トラブルが発生した際に会社を守るどころか、かえって不利な証拠となり、会社の主張の足かせとなる危険性すらあります。 - 10名未満の企業こそ、戦略的活用を!
就業規則の作成義務のない10名未満の企業様こそ、就業規則を整備するメリットは大きいと言えます。
採用、休日、賃金といった基本的なルールを書面で明確にすることで、「言った・言わない」といった感情的な対立を未然に防ぎます。
さらに、公平で透明性のあるルールは、従業員に「この会社は信頼できる」という安心感を与え、エンゲージメントを高めます。これは、人材の獲得競争が激化する現代において、貴重な人材の離職を防ぎ、定着率を向上させるための極めて有効な経営戦略です。
2. 賃金の支払い:「正しく」計算し、支払えていますか?
賃金は従業員の生活を支える最も重要な基盤であり、その支払いには厳格な「賃金支払いの5原則」(①全額払い ②直接払い ③通貨払い ④毎月1回以上払い ⑤一定期日払い)が法律で定められています。
この原則を守ることは当然ですが、特に経営者を悩ませるのが、複雑な「割増賃金」の計算です。
時間外労働、休日労働、深夜労働がそれぞれ何%の割増になるのか、それらが重複した場合はどう計算するのか、正確に把握できているでしょうか 。
万が一、計算を誤れば、それは「賃金未払い」という重大な法律違反です。従業員からの信頼を失うことはもちろん、労働基準監督署による是正勧告、そして最悪の場合、過去2年分(将来的には5年分)に遡って多額の未払い賃金と、それと同額の「付加金」の支払いを裁判所から命じられる可能性があります。これは、企業の存続を揺るがしかねない深刻な財務リスクです。
3. 解雇・雇止め:その判断、法的に問題ありませんか?
残念ながら、従業員との雇用関係を終了せざるを得ない場面も起こり得ます。しかし、日本の労働契約法では労働者の地位は手厚く保護されており、会社が一方的に従業員を解雇することは極めて困難です。
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」と認められない解雇は、権利の濫用として無効となります。
これは、単に「能力が低い」「経営が少し苦しい」といった理由だけでは到底認められません。経営不振を理由とする「整理解雇」においては、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性という厳しい要件をクリアする必要があります。
万が一、不当解雇として訴訟に発展し会社が敗訴した場合、解雇は無効となり、解決までの期間の給与全額を遡って支払うよう命じられます。これは正社員に限らず、契約を反復更新してきた有期契約労働者の「雇止め」においても、解雇と同様に厳しく判断されるケースが増えています 。
一つの判断ミスが、致命的な経営ダメージに繋がりかねないのです。
4. 労働時間と休日:知らないうちに法律違反していませんか?
残業や休日出勤には「36(サブロク)協定」の届出が必須ですが、これも単なる手続きではありません。
協定で定められる残業時間には法律で上限が設けられており、これを超過すれば罰則の対象となります。
さらに、2019年からは、年間10日以上の有給休暇が付与される全従業員に対し、年5日を取得させることが会社の義務となりました。従業員一人ひとりの取得状況を管理し、計画的に取得を促す体制は整っているでしょうか。
これらの管理を怠ることは、法的なリスクに留まりません。長時間労働は従業員の心身の健康を蝕み、メンタルヘルス不調を引き起こす原因となります。その結果、生産性の低下、休職者の増加、そして最終的には企業の魅力低下による離職者の増加という、負のスパイラルに陥ってしまうのです。
◆ 結論:労務管理の専門家は、企業の成長を加速させるパートナーです
ここまで見てきたように、現代の労務管理は、もはや「総務の片手間仕事」で対応できるほど単純なものではありません。これらの複雑な業務に、経営者や管理職の貴重な時間とエネルギーを費やすことは、目に見えない人件費コストであると同時に、本来注力すべきコア業務からリソースを奪うことにも繋がります。
社会保険労務士への依頼は、単なる事務作業のアウトソーシング費用ではありません。
それは、未来の成長に向けた、極めて合理的な「戦略的投資」です。
- リスク管理投資予期せぬ労使トラブルによる多額の損失や、行政調査による信用の失墜といった、深刻な経営リスクを未然に防ぎ、会社の守りを固めます。
- 人材投資公正で安心できる労働環境を整備することで、従業員の満足度と定着率を高め、生産性を向上させます。これは、採用難の時代を勝ち抜くための、強力な「選ばれる会社」への投資です。
- 時間投資経営者が労務管理の不安や煩雑さから解放され、事業計画、新規開拓、資金繰りといった、経営者でなければできない本来の仕事に集中するための、最も価値ある時間を生み出します。
盤石な労務管理という土台があってこそ、企業は安心して成長のアクセルを踏み込むことができます。
私たち社会保険労務士は、法的なリスクから会社を守る「番人」であると同時に、人事・労務の側面から貴社の成長を力強く後押しする「最も身近な経営パートナー」です。ぜひ一度、お気軽にご相談ください。
